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文法第十二:存現倒置

文法第十二:存現倒置

 みなさんひさしぶりです

 

 今回は、漢文の「存現倒置」について学びます。

本文

 漢文には、「有」「無」「生」「亡」など、存現を表す言葉が動詞となる場合に、倒置を起こすことが多々あります。

 

今、これを「存現倒置」と命名します。

 

存現倒置は、単語レベルでは気象用語によく見られます。「降雪[雪降る]」「発露[露発す]」「積雪[雪積もる]落雷[雷落つ]」などがいい例ですね。

 

存現倒置を起こす場合、文型は「動作場所-動詞-主語」という語順に変化します。

 

以下、その具体例を見て行くことにしましょう。

 

例1:女王名曰台与齢十三而善治国。

訓読:女王有り、名は台与と曰ふ。齢十三にして善く国を治む。

訳:倭には女王がいて、名は台与という。年齢は十三で上手く国を治めている。

説明:倭=動作場所、有=動詞、女王=主語です。

 

例2:今日狼豺故鹿猪荒山農民苦焉。

訓読:今日狼豺無し、故に鹿猪 山を荒らし農民 焉に苦しむ。

訳:今日倭には狼や豺[やまいぬ]がいない。だから鹿や猪が山を荒らし、農民はこれに苦しむ。

説明:倭=動作場所、無=動詞、狼豺=主語です。

 

例3:此国

訓読:此国多く少なし、富み乏し

訳:この国には女が多いが男は少ない。又、財宝は豊富だが兵器は乏しい。

説明:此国=動作場所、多少富乏=動詞、女男財兵=主語です。

 

例4:街道如山道矣。

訓読:街道生じ、山道の如し。

訳:街道に草が生じ、山道のようになっている。

説明:街道=動作場所、生=動詞、草=主語です。

 

例5:及晩秋至初冬

訓読:晩秋に及び草に[]発し、初冬に至りて遂に積もる

訳:晩秋になって草には日に日に露が出て、初冬に至って道には遂に雪が積もった。

説明:草・道=動作場所、発・積=動詞、露・雪=主語です。

 

 ちなみに、副詞などを挿入したい場合の文型を敢えて書き出すと、以下のような感じになります。

 

(文頭前置詞句・文頭副詞・大主語)-動作場所-(主後/述前前置詞句・主後/述前副詞)-動詞-主語-(文尾前置詞句・補語・終助詞)

 

例:倭国古来及冬為寒気大如山也。(「大主語-文頭副詞-文頭前置詞句-動作場所-述前前置詞句-述前副詞-動詞-主語-補語-終助詞。」の構造)

訓読:倭国古来冬に及ばば道 寒気の為に大いに雪積もること山の如きなり。

訳:倭国では古来冬になると道は寒気のために山のように大いに雪が積もるのであった。

説明:倭国=大主語、古来=文頭副詞、及冬=文頭前置詞句、道=動作場所、為寒気=述前前置詞句、大=述前副詞、積=動詞、雪=主語、如山=補語、也=終助詞です。

 この文では「道に」ではなく「道」となっていますが、これは述前前置詞句が入った結果、日本語的に「に」は入れない方が自然だろうと思ってのことです。訓読は最終的にはこんな風に多少の柔軟性をもって行われます(といっても、主語の後ろに「は」や「に」を入れるべきかどうか、という程度のことが多いですが)ので、悪しからず。

 

 存現倒置は、普通文型ともこれまでの倒置文ともちょいと違った特殊な構造の文ですので、注意して覚えてもらいたいところですね。はい。

 

練習問題1:次の存現倒置を含む漢文を、訓読・翻訳してみよう。

(1)   至春道生草木。 至…「~に至[いた]り」。「及」と同義。「~になると」。

(2)   及冬街道大積雪矣。

(3)   晩夏大雨人家屡落雷。 雨…[自動][あめふ]る。 屡…屡[しばしば]

(4)   道有一狼。

 

練習問題2:次の書き下し文を、存現倒置を起こした漢文に復元してみよう。

(1)   今日倭国諸山に一狼無し。

(2)   今年冬にして何ぞ未だ雪降らざる。

(3)   砂漠に水無く草木出でず。

(4)   嗚呼太平の世にして何ぞ我が国亡びし。

 

 以上で今回の勉強はおしまいです。

 

 それでは今回はこの辺で。ぐっばい。

 

終わりに

 以上にて、漢文の存現倒置の勉強はおしまいです。

 

 ではまた今度。

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