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文法第六:兼語動詞

文法第六:兼語動詞

 みなさん、こんにちは。

 

 今回は、兼語動詞について勉強します。

 

 なお、今回から、作業の軽減を目的に、本文は原稿であるWord文書をそのまま貼り付ける形式にします。ご了承ください。

兼語について

 漢文には「兼語文」というものがあります。今、この文を構成する動詞を「兼語動詞」と命名し、その特徴について述べていきたいと思います。

 

 漢文の兼語動詞には、「使」「令」「有」「無」などがあります。これらはみな目的語を取る他動詞の一種なのですが、その目的語自体が更に述語を持ち得ます。

 

 図で表せば、以下のような文を構成するということです。

 

文型:主語-兼語動詞-目的語-述語()(目的語=述語の主語)

※:兼語文の「目的語-述語」の構造は、目的語=述語の主語、すなわち「主語-述語」の構造でもあります。そのため、「目的語-副詞-述語」「目的語-前置詞句-述語」「目的語-助動詞-述語」のように、目的語と述語の間に副詞や前置詞句や助動詞を入れる構造も可能です。

 

 この時、目的語は兼語動詞の目的語であり、且つ後ろの述語の主語でもあります。一文の中で、一語が目的語と主語の二つの役割を兼ねているため、これを「兼語文」と言うのです。

 

 漢文の兼語動詞は、二種類あります。一つは「使役動詞」、一つは「存在動詞」です。…といっても、「存在動詞」の方は私が学習の便を図るために勝手に命名したものですが。

 

 ともあれ、以下、使役動詞と存在動詞に分けて、兼語動詞について勉強していきましょう。

1:使役動詞

 使役動詞には、使」「令」「遣」「教」「与」「命」「勧」「説」「欺」「脅」などがあります。このうちよく使われるものは「使」「令」の二つです。

 

 「使」「令」の二つは、ただ使役「〜せる/させる」の意味を表すのみで、それ単体で用いられることはありません(但し、使役でない普通の動詞としては使われますが)。そのため必ず目的語とその述語を伴うものです。

 

 一方で、「遣」「教」「与」「命」「勧」「説」「欺」「脅」などは、原則としてはただの他動詞なのですが、文脈によって使役動詞に変化しうる動詞群です。そのため、使役動詞になる場合でも、「〜を遣[つか]はして…しむ」「〜に教へて…しむ」「〜に与へて…しむ」「〜に命じて…しむ」「〜に勧めて…しむ」「〜に説[]きて…しむ」「〜を欺[あざむ]きて…しむ」「〜を脅して…しむ」というように、原義を残したまま使役「〜しむ[=せる/させる]」の意味も合わせ持つという感じになります。

 

とはいえ、「教」「遣」の二字に関しては、学校の漢文の授業で習うように、時には使役「〜せる/させる」の意味のみを持ち、原義を失っている場合もあるようなので、そこは注意しておいた方がいいかもしれません。…まぁ当サイト的には「教」「遣」二者は原義を失わないのを原則としますが。

 

まぁなにはともあれ、具体的な例文を読んで行くとしましょう。

具体例

例1:(一日)為将((副詞)-主語-使役動詞-目的語-述語)

訓読:(一日)に命じて将たらしむ

訳:(ある日)王はに命じて将軍たらしめた。=将軍にした。

説明:他動詞「命」の対象すなわち目的語=「我」。その「我」は述語「為将」の主語でもあります。よって「我」は「命」の目的語と「為将」の主語を兼ねることになります=兼語。

 

例2:真之善人()使善良(「主語-(助動詞)-使役動詞-目的語-述語)

訓読:真の善人は(能く)をして善良たらしむ

訳:本当の善人は、人=他人善良たらしめる(ことができる)

説明:使役動詞「使」の対象すなわち目的語=「人」。その「人」は後ろの述語「善良」の主語でもあります。よって「人」は「使」の目的語と「善良」の主語を兼ねることになります=兼語。

 

例3:(嗚呼)我国(以兵)殺人(多数)((感動詞)-主語-使役動詞-目的語-(前置詞句)-述語-(補語))

訓読:(嗚呼)我が国 をして(兵を以て)人を殺す(こと多数なら)しむ

訳:(ああ)、我が国は(兵器でもって)人を(多数)殺させる

説明:使役動詞「令」の対象すなわち目的語=「民」。その「民」は(前置詞句「以兵」と)述語「殺人」(及び補語「多数」)の主語でもあります。よって「民」は「令」の目的語と述語「(以兵)殺人(多数)」の主語を兼ねることになります=兼語。

 

例4:先生使()(以論語)教人仁(「主語-使役動詞-目的語-(助動詞)-(前置詞句)-述語)

訓読:先生をして (能く)(論語を以て)人に仁を教へしむ

訳:先生は (論語でもって)人に仁を教え(られる)ようにした

説明:使役動詞「使」の対象すなわち目的語=「我」。その「我」は(助動詞「能」及び前置詞句「以論語」及び)述語「教人仁」の主語でもあります。よって「我」は「使」の目的語と「()(以論語)教人仁」の主語を兼ねることになります=兼語。

 なお、使役動詞は今回の「使我能…」のように助動詞が挟まって来るとなかなか訳し辛いですが、可能の助動詞に関して言えば「〜れるようにする」と訳すとすんなり意味がとれます。

例えば、「唯使倉庫可備凶年。」なら「唯だ倉庫をして凶年に備ふべからしむるのみ。」すなわち、「ただ倉庫を凶年に備えられるようにするだけだ。」となりますね。

 

練習問題1:次の使役動詞を含む漢文を、訓読・翻訳してみよう。

(1)王与賊刀速自害。

(2)我妻欺我売家田於男。

(3)神使我苦如斯。 如斯…[補語][]くの如[ごと]し。このようだ。

(4)百姓皆令其子耕田。

(5)我能使濁水可飲。

(6)此書使我能至真理。

 

練習問題2:次の使役動詞を含む書き下し文を、漢文へと復文してみよう。

(1)昔者[むかし]我が国も亦た少年をして異国に出征せしむ。

(2)父嘗て我に教へて書を机上より盗らしむ。

(3)村人 之に説きて速やかに去らしむ。

(4)王 壮年をして常に国境を衛らしむ。

(5)此の事 我をして彼の国を寇[あだ]せんと欲せしむ。 寇…寇[あだ]す。侵略して害をなす。

(6)王 城を築きて以て東夷の寇に耐ふべからしむ。 東夷の寇…東夷之寇

2:存在動詞

 存在動詞は、「有」「無」の二つのみです。「無」は「有」の否定語です。「有」「無」を用いた構文は、漢文の意味・構造としては目的語=述語の主語という「兼語」に過ぎないのですが、これは日本語にはない構造。

故に訳す時は結構厄介なので、一応訳し方を覚えておきましょう。

 

@「有」の兼語文

文型:主語--目的語-述語

訓読1:主語目的語有り述語

訳1:主語目的語があり/いて/現れ述語

説明:つまり、「有-目的語」で区切って、残りの「述語」を主語を省いた一文と解釈する訳し方です。

この解釈に沿えば、文のつくりはむしろ「主語--目的語、(主語[省略])-述語」の複文構造となりますね。

 

訓読2:主語目的語の述語有り

訳2:主語目的語で述語するものがある/いる/現れる

訳3:主語述語する目的語がある/いる/現れる

説明:この形の場合は、訳2のような訓読を直訳したものと、訳3のような述語部分でもって目的語を連体修飾する訳し方と、両方あります。とはいえ、訳3は漢文の訳としてはあまり見ませんね。現代中国語の訳としてはよく見るのですが。まぁどちらでも間違いではありません。

具体例

例1:途中(忽然)襲之(「主語--目的語-(副詞)-述語)

 

訓読1:途中有り(忽然として)之を襲ふ

訳1:道の途中でが現れ(突然に)これを襲った

 

訓読2:途中(忽然として)之を襲ふ有り

訳2:道の途中で(突然に)これを襲うものが現れた

訳3:道の途中で(突然に)これを襲うが現れた

 

例2:(古者)万国為王(数百歳)((副詞)-主語--目的語-述語-(補語))

 

訓読1:(古者)万国に[ひじり]有り王たる(こと数百歳なり)

訳1:(古代には)どの国にも聖人がいて(数百年の間)王であった

 

訓読2:(古者)万国に王たる(こと数百歳なる)有り

訳2:(古代には)どの国にも聖人(数百年の間)王であるものがいた

訳3:(古代には)どの国にも(数百年の間)王である聖人がいた

 

例3:中国使我教人仁

 

訓読1:中国に有り我をして人に仁を教へしむ

訳1:中国には経典があり私に人に仁を教えさせる

 

訓読2:中国に我をして人に仁を教へしむる有り

訳2:中国には経典私に人に仁を教えさせるものがある

訳3:中国には私に人に仁を教えさせる経典がある

説明:これは、述語部分の動詞が「使役動詞」の例ですね。使役動詞はあくまで動詞の一種です。なのでこの構文でも当然使用可能というわけです。

 

 

 

 まぁ、どの訳し方でも間違いではありませんので、基本ケースバイケースでよりしっくり来る解釈を選べばよいかと思います。

 

 但し、私が大学にいた頃は、教授や先輩方は連体修飾的な訳し方(訓読2で訳3のもの)をすることは滅多にありませんでした。「有」の場合、複文として解釈することが可能なうえ、日本人的に訳3の方はなかなかなじみにくいのが原因かと思います。

 

A「無」の兼語文

文型:主語--目的語-述語

訓読:主語目的語の述語無し

訳:主語には述語する目的語がない

説明:つまり、述語部分を目的語に連体修飾させて解釈する訳し方です。「無」はこの訳し方のみなので、覚えるのに迷う必要はありません。

…しかし、「無」の対義語の「有」では少数派の連体修飾の訳(訓読2の訳3の様式)が、「無」では原則という不思議。まぁ仕方ないですね。「無」の方は意味的に複文構造では解釈できませんから、「有」みたいにすんなり日本語に変形できなかったのでしょう。

 

例1:今此一人((副詞)-主語--目的語-述語)

訓読:今此[ここ]一人帰る無し

訳:今ここには帰る一人がいない。=今ここには帰るものが一人もいない

 

例2:父母説之仁徳(「主語--目的語-述語)

訓読:我に父母之に仁徳を説く無し

訳:私にはこれ=私に仁徳を説く父母がなかった

説明:「之」は、文脈上の前にある語を指す指示語です。そのため漢文の「之」は、文脈によってはこのように「私」を指すことさえあります。この辺は日本語の「これ」「それ」と違う点と言えそうですね。

 

練習問題3:次の存在動詞を含む漢文を、訓読・翻訳してみよう。

(1)道中有人招我於家。 招…招[まね]く。

(2)倭国有邪馬台国以一女為王。 以〜為…→〜を以て…と為す。〜を…にする。

(3)今此無人能教人兵法。 此…此[ここ]。 兵法…戦い、戦争の方法のこと。

(4)王今無臣敢忠言。 敢…敢[]へて。 忠言…忠告。

 

練習問題4:次の書き下し文を、存在動詞を含む漢文へと復文してみよう。

(1)道に童女有り我に酒を売らんと欲す。

(2)我が子に心の人を哀れむ無し。

(3)倭国に嘗て狼有り鹿猪を諸山に食らふ。 諸…諸[もろもろ]の。

(4)今日我が国に臣の敢へて王を諌むる無し。

参考:「有」の否定語いろいろ

漢文では、「有」の否定語は原則「無」ですが、実は漢文では、「無」を表す言葉には割と時代毎にバリエーションがあったりします。

 

例えば、諸子百家の経典の時代においては「有」の否定に「不有」という表現があったり、唐代においては「有」の否定に「無有」という表現が使われたり、と言った感じです。

 

例1:今此不有一人帰。

訓読:今此に一人の帰る有らず

訳:今ここには帰る一人がいない。=今ここには帰るものが一人もいない

 

例2:不有父母説之仁徳。

訓読:我に父母の之に仁徳を説く有らず

訳:私にはこれ=私に仁徳を説く父母がなかった

 

例3:今此無有一人帰。

訓読:今此に一人の帰る有る無し

訳:今ここには帰る一人がいない。=今ここには帰るものが一人もいない

 

例4:無有父母説之仁徳。

訓読:我に父母の之に仁徳を説く有る無し

訳:私にはこれ=私に仁徳を説く父母がなかった

 

因みに現代中国語では「有」の否定は、「没」「没有」の二つが併用されています。更に台湾語辺りだと未だに「無有」が使われたりしてます。意外と漢文の文法は現代まで受け継がれているのですよ。

 

 漢文の「有」の否定語事情は上記の通りです。ただ、普通の漢文としては「有」の否定はやはり「無」が一般的です。なので当サイトとしましても、「有」の否定語は原則「無」を採用することにします。

補足:

 今更ですが、使役動詞も存在動詞は、いずれも「兼語動詞に成り得る動詞」。つまり、述語を取らないただの動詞としても使うことができます(但し、使役の「使」「令」は除く)

 

例1:賊大我。

訓読:賊大いに我を脅す

説明:後ろに述語が来れば、「賊大いに我を脅して…しむ」となりますが、この文では述語がないので、ここでの「脅」はただの動詞に過ぎません。

 

例2:国王使於倭国。

訓読:国王使ひを倭国に遣はす

説明:後ろに述語が来れば、「国王使ひを倭国に遣はして…しむ」となりますが、この文では述語なし。なので「遣」はここではただの動詞です。

 

例3:今日日本已狼。

訓読:今日日本に已に狼無し

説明:後ろに述語が来れば、「今日日本に已に狼の〜無し。」となりますが、この文では述語がないので、「無」はただの動詞に過ぎません。

 

例4:我尚父。

訓読:我に尚[]ほ有り

説明:後ろに述語が来れば、「我に尚ほ父有り、…」となりますが、この文に述語はない。なので「有」はここではただの動詞なのです。

 

 まぁこの辺は、兼語動詞を習ったあとならすぐに理解できるでしょう。練習は特にしないことにします。

おわりに

 今日の勉強はここまでです。それではまた。ごきげんよう。

 

 

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