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第十ニ回漢文翻訳練習:「文の句化」

第十二回:文の句化

 こんにちは。造言主です。

 

 今日は、第十二回漢文翻訳練習。豊かな漢作文能力を培う上で欠かせない漢文の特徴、「文の句化」について学びます。

文の句化とは?

 「文の句化」とは、当ブログでは、文が名詞句もしくは連用修飾句になることを指して言うことにしています。

 

 …なんか曖昧な言い回しだなぁと思う方もいそうですね。鋭い。要は、日本の漢文関係の書籍では、この現象について言及するものがあまりないので、私自身、これに対してどういう文法用語を用いればよいのか分からないのです。

 

 とはいえこのまま学習項目に名称を与えずにいると学習の便宜上よろしくないと思うので、とりあえず当ブログでは以下に説明する現象を「文の句化」と呼んでおくことにします。

漢文の「文の句化」詳細説明

 前置きはここまでにして、早速詳しい説明に入りたいと思います。

 

 漢文では、一つの文章がそのまま主語になったり目的語になったり、連用修飾語になったりできます。

 

 以下、例を示します。

 

文:「彼国頗憎我国」(訳:あの国はとても我が国を憎んでいる)。

 

@主語となる例:彼国頗憎我国起此大戦也。
訳:あの国がとても我が国を憎んでいることがこの大戦を引き起したのである。

 

A目的語となる例:→人皆知彼国頗憎我国
訳:人は皆あの国が我が国をとても憎んでいることを知っている。

 

B連用修飾語:彼国頗憎我国、我国民皆悪彼国也。
訳:あの国がとても我が国を憎んでいるから、我が国の民は皆あの国を嫌うのである。

語釈:@起…起こす。引き起こす。 A〜也…〜のである B悪〜…〜を嫌う。

 

 Bはいわゆる「複文」というやつですね。中心となる文(主節)が後ろにあって、それを修飾する文(従属節)がその前にある構造です。

 

 複文は、日本語なら、理由なら「〜から」、仮定なら「〜ならば」、時間なら「〜時」などと詳しく言いますが、漢文では前後の文脈によって仮定・理由・時間などの意味が勝手に付け加わります。いいですよね、漢文。書き手はかなり楽できます。読み手は大変ですが…。

「之」を伴う文の句化

 ところで文の句化が起こる時、句化する文の主語と述語の間に「之」を入れても構いません。というか入れた方が読み手としては分かり易いです。

 

 主語と述語の間に「之」が入れば、それは絶対に文ではなく句です。「之」は文を句に変えてしまうという超重要な単語ですので、是非ともここで押さえておきましょう。

 

 以下に例を示します。

 

句:「彼国頗憎我国」(訳:あの国がとても我が国を憎んでいること)。

 

主語となる例:彼国頗憎我国起此大戦也。
訳:あの国がとても我が国を憎んでいることがこの大戦を引き起したのである。

 

目的語となる例:→人皆知彼国頗憎我国
訳:人は皆あの国が我が国をとても憎んでいることを知っている。

 

連用修飾語:彼国頗憎我国、我国民皆悪彼国也。
訳:あの国がとても我が国を憎んでいるから、我が国の民は皆あの国を嫌うのである。

「其」を伴う文の句化

 文の句化はかなり奥が深いのです。関連するもう一つの表現を覚えましょう。

 

 関連表現には、第十回で先送りにしていた、主格の「其」を用います。「其」は、前の文脈の言葉を指す指示代名詞でしたね。

 

 早速例文です。

 

 まず、「其」の前の文脈となる文を以下に提示します。

前の文脈:彼国頗大、然我国不之信。
訳:あの国はとても大きいが、しかし我が国はこれ[=彼国]を信じない。

 

 以上の文脈を踏まえて「其」を解釈してくださいね。

 

 よし次。例文を示します。

句:「頗憎我国」(訳:それ[=彼国]がとても我が国を憎んでいること)。

 

主語となる例:頗憎我国起此不信也。
訳:それ[彼国]がとても我が国を憎んでいることがこの不信を引き起したのである。

 

目的語となる例:→人皆知頗憎我国
訳:人は皆それ[=彼国]が我が国をとても憎んでいることを知っている。

 

連用修飾語:頗憎我国、我国民皆悪之也。
訳:それ[彼国]がとても我が国を憎んでいるので、我が国の民は皆これ[彼国]を嫌っているのである。

 

 例文は以上です。

 

 なお、「其」を用いる場合は、「其」と述語の間に「之」を入れることはできません。そもそも「其」は「句」の主語として使えませんので、「其」が主語である時点でその文は文ではなく句と分かりますからね。「之」で句であることを明示する必要がないわけです。

練習問題

 最後に練習問題です。頑張って取り組んでみましょう。

 

練習問題1:次の漢文を日本語に翻訳してみよう。

(1)汝嫌我猶犬悪猿。
(2)我聞汝之祖国已亡不在。
(3)神実在、伴而示我!
(4)汝之嫌我猶犬悪猿
(5)我聞汝之祖国之已亡不在。
(6)神之実在、伴而示我!
(7)其嫌我猶犬悪猿
(8)我聞其已亡不在。
(9)其実在、伴而示我!

語釈:@猶〜:[動詞]ちょうど〜のようなものだ。ちょうど〜と同じだ。A悪〜:〜を嫌悪する B已:すでに。もう。 C伴〜:〜を伴う。連れる。 D而:そして。

 

練習問題2:次の日本語を漢文に翻訳してみよう。但し、(4)〜(6)には「之」を用い、(7)〜(9)には「其」を用いること。

(1)私が神を信じないのは、ちょうど君が霊を信じないのと同じことさ。
(2)私はあなたの幸が多いことを願います。
(3)私が日本に渡ったとき、日本はまだ豊かではなかった。
(4)私が神を信じないのは、ちょうど君が霊を信じないのと同じことさ。
(5t)私はあなたの幸が多いことを願います。
(6)私が日本に渡ったとき、日本はまだ豊かではなかった。
(7)それが神を信じないのは、ちょうど君が霊を信じないのと同じことさ。
(8)私はそれの幸が多いことを願います。
(9)それが日本に渡ったとき、日本はまだ豊かではなかった。

語釈:@ちょうど〜と同じことだ:猶〜[猶は動詞]。 A〜は幸が多い:〜多幸。

 

 

 今日の漢文翻訳練習はここまでです。それでは皆さん、ごきげんよう

 

 ふぅ…結構レベルが上がってきましたね。日本での漢文学習は、文法の吸収というよりは句形の暗記ですので、今日のような漢文の文の構造に関する勉強はしんどかったかもしれません。

 

 当ブログではこういう漢文の文の構造に関する勉強というのが時々ありますので、覚えておいてください。

 

 それでは、お疲れさまでした…。ふぅ、私も疲れました…。執筆時間、二時間超。これはきつい…。

補足:注意事項

実は「其」を主語とする連用修飾句については、本当に使われるかどうか分かりません。

 

 当ブログでは、「普通の文や『之』で主語と述語を繋いだ句が連用修飾句となる以上、それによく似た働きをする「其」を主語とする句でも同じことができるのだろう」という私の独断的な類推に基づいて、「其」を用いた句でも連用修飾機能を採用していますが、実際の漢文でそれがあるかどうかは分からないのでそこは留意しておいてくださいね。

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