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第十三回漢文翻訳練習「漢文の複文」

第十三回漢文翻訳練習:漢文の複文

 こんにちは。造言主です。

 

 今日は第十三回漢文翻訳練習。予告していた通り、漢文の複文を勉強します。

複文とは?

 複文とは、要は複数の文からなる文のことを言います。

 

 例えば日本語の「一人は寂しいので、友達を呼ぶことにした」などが複文です。「一人は寂しい」という一文と「友達を呼ぶことにした」という一文が、「~ので」という接続助詞によって繋げられた形になっていますね。

 

 このように、複数の文が連なってなる文が複文なのです。

本編

 早速勉強に入ります。

 

 日本語では、複文の文章を作成する場合、「~ならば[仮定]」「~ても[逆接の仮定]」「~けれども[逆接]」「~から[理由][」」「~と[偶然]」などの接続助詞を用いて前の文を後ろの文に繋げて複文を生成しますが、漢文においては、ただ通常の文を二つ並べるだけで複文になってしまいます。

 

例文:

(1)我与汝之、、彼蓋怨我。
訳:私がお前にこれを与えれば、彼はおそらく私を恨むだろう。

 

(2)彼女甚美、男皆求之。
訳:あの女ははなはだ美しいので、男は皆これ[彼女]を求める。

 

(3)先日我往其家、家中無人。
訳:先日私はその家に行ったけれど、家の中に人はいなかった。
(補足:時間の副詞はしばしば文頭に置かれる。)

 

(4)我問其意、彼即答之。
訳:私がその意味を問うと、彼はすぐさまこれに答えた。

 

(5)我不之援、彼助之。
訳:私がこれを助けなくとも、彼がこれを助けるさ。

 

 上の訳は一例です。例えば(5)などは、文脈によって様々な解釈が可能です。文脈次第で「私はこれを助けなかったが、彼はこれを助けた」という訳になったり、「私がこれを助けなければ、彼がこれを助けるだろう」という訳になったり、「私がこれを助けないので、彼はこれを助けた」という訳になったりします。

 

 要するに、漢文の複文は、文脈次第で勝手に仮定・逆接・理由・偶然といった意味を表すことになるのです。書き手にとっては頗る楽な文法ですね。読み手にとってはやや大変ですが。

 

 因みにこの「文を二つ並べるだけで複文になる」という漢文の特徴は、現代中国語にもそのまま受け継がれています。興味のある人は現代中国語も学んでみましょう。結構漢文の文法が受け継がれているんですよね、現代中国語。

練習問題

練習問題1:次の漢文を日本語に翻訳してみよう。

(1)我嘗渡日本、其国未豊。
(2)女甚麗、世間之男皆羨其夫。
(3)彼実秀才、未得官位。
(4)我失此銭、妻或棄之。
(5)男見其惨状、即大叫求助。

語釈:①実…本当に ②或…ひょっとすると。副詞。 ③棄…見捨てる。 ④之…時に「我」を指すこともある。

 

練習問題2:次の日本語を漢文に翻訳してみよう。

(1)私が嘗てこの家にいた時、家は今より小さかった。
(2)王は甚だ暴虐であったので、民は皆これを恨んだ。
(3)将軍は忠[忠誠]を尽くしたが、とうとう王の信[信頼]を得られなかった。
(4)君主が愚かで道理を知らなければ、国は当然久しくはない[長くは持たない]。
(5)私がこれを拒むと、女はこれ[=私]を激しく罵った。

語釈:①~にいる…在~。 ②今より形容詞…形容詞於今。 ③とうとう…終。副詞。 ④愚かで~…愚而~。「而」は「そして」の意。 ⑤道理…道。 ⑥当然~ではない…不当~。「当」は助動詞。 ⑦長持ちする…久。

今日の結びの言葉

 さて、今日の漢文翻訳練習はこれでおしまいです。

 

 漢文の複文は、文脈次第でいかようにも訳しうるという特徴があります。普段漢文の読み手側になっている我々からすれば厄介この上ない文法ですが、翻訳練習などでいざ自分が漢文を書いてみる側になってみると、むしろ「便利な」文法だったりします。

 

 単純であるがゆえに書き手には楽、しかし単純過ぎるがゆえに読み手には苦。漢文という言語の特徴ですね。読み手には文脈から意味を補うという作業がやたらと求められることになるのです。

 

 過去か、未来か、現在か。平叙文なのか、命令文なのか。ここまでが漢文の一文において考えなければならない項目でしたが、複文の場合はそれに加えて、仮定か、逆接か、理由か、あるいは…と、更に解釈の幅が広がるわけですからね…。読者泣かせの言語ですよ、恐るべし、漢文。

 

 

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