第十四回漢文翻訳練習「目的語が主語になる構文」
こんにちは。造言主です。
今日は、第十四回漢文翻訳練習。目的語が主語になる構文を学びます。
本編
漢文は、普通動詞の直後に目的語を置きますが、時にその目的語が主語として文頭に来ることもあります。
目的語が主語となるとは、要は目的語が主題として文頭に来ることを言います。
例①:
通常文:我解日本語、然不解中国語。
翻訳例:私は日本語を理解するが、然し中国語を理解しない。
目的語主題文:日本語我解、中国語我不解。
翻訳例:日本語は私は理解するが、中国語は私は理解しない。
例②:
通常文:今日不用漢文矣。
翻訳例:今日[こんにち]漢文を用いなくなってしまった。
目的語主題文:漢文今日不用矣。
翻訳例::漢文は今日用いなくなってしまった。
語釈:不~矣…~しなくなっ(てしまっ)た。
例②の文は、「漢文は今日用いられなくなってしまった」と訳しても問題ありません。目的語が主語になっている構文において動詞の動作主にあたる言葉がない場合、むしろこうして受け身のぶんとして訳した方がすっきりすることも多々あるのです。
派生文型:「之」を挿入する構文
目的語が主語になる文型においては、動詞の直後に「之」を入れることがあります。
例①:
目的語主題文:日本語我解、中国語我不解。
翻訳例:日本語は私は理解するが、中国語は私は理解しない。
「之」を入れると:日本語我解之、中国語我不之解。
翻訳例:日本語は私はこれを理解するが、中国語は私はこれを理解しない。
この例では、最初の「之」=「日本語」、最後の「之」=「中国語」となります。
例②:
目的語主題文:漢文今日不用矣。
翻訳例::漢文は今日用いなくなってしまった。
「之」を挿入:漢文今日不之用矣。
翻訳例:漢文は今日これを用いなくなってしまった。
語釈:不~矣…~しなくなっ(てしまっ)た。
この例では、「之」=「漢文」です。
要するに、目的語を文頭に持って来る場合、代わりに本来の目的語の位置である動詞の直後に「之」を持って来ることで、本来の目的語の位置は「之」の部分だと明示できるわけですね。
もっとも、「之」を挿入するかどうかは書き手の任意に過ぎませんので、漢作文の折は各自任意で「之」を付けたり付けなかったりしてください。。
練習問題
練習問題1:次の漢文を日本語に翻訳してみよう。
(1)倭国今日謂日本。
(2)蝦夷地今日謂之北海道。
(3)神我不信、定我信之。
(4)倭国大王今日謂之天皇、国民挙敬之。
語釈:①倭国…古代の日本の呼称。 ②謂-甲-乙…甲を乙という。。 ③蝦夷地…昔の北海道の呼称。 ④定…定め。運命 ⑤挙…挙[こぞ]って。皆。
練習問題2:次の漢文を、目的語を文頭に持って来た形にしてみよう。
(1)今日不用倭国之名。
(2)今日謂琉球沖縄。
(3)我不願己之幸、然願汝之福。
(4)今日謂倭人日本人。
語釈:謂-甲-乙…甲を乙という。
むすびの言葉
今日の漢文翻訳練習はここまでです。
いかがでしたか。今日勉強した文型は何気に結構大事ですよ。
高校時代、「漢文は受け身の助動詞などを用いなくても、文脈で受け身の意味になることもある」なんてことを教えられませんでしたか?
私が高校生の頃は、「受け身が文脈で決まるなんて、どういう文法してるんだ、漢文は」なんて、漢文の言語構造に不信感のようなものを抱いたものですが、実際にはそれも一種の構文だったんですね。
「被」などの受け身の助動詞を用いずとも文脈で受け身の文になりうるものとは、ずばり今回学んだ「目的語が主語として文頭に来ている構文」のことです。この構文は訳し方次第では受け身にもなりえますからね。
因みにこの構文は現代中国語にも受け継がれていたりします。興味のある方は現代中国語も学んでみるといいと思います。
それでは今日はこれにて失礼します。御機嫌よう~。
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