第二十回漢文翻訳練習:有る無し構文
こんにちは。造言主です。
今日は、漢文翻訳練習第二十回。漢文における「有」「無」を用いた構文を学びますよ~。
「有」「無」の使い方
漢文で「甲に乙がある/いる」「甲に乙がない/いない」という意味の文を作りたい時は、以下のような文型をとります。
(1)甲に乙がある→「甲+有+乙」。
例:
我有兄弟、皆死於彼戦。
→私には兄弟がいたが、皆かの戦にて死んでしまった。
日本嘗有狼二種、一曰日本狼、一曰蝦夷狼。両者今已滅矣。
→日本には嘗て狼が二種類いた。一つは日本狼といい、一つは蝦夷狼といった。両者は今はすでに滅んでしまった。
村人有楽人苦者。
→村人(の中)に、人の苦しむのを楽しむ者がいた。
(2)甲に乙がない→以下の三つがある。
①「甲+無+乙」
例:
我原無兄弟。
→私にはもともと兄弟はいない。
今者、日本無狼。
→今は、日本に狼はいない。
倭人無悪我国者。
→倭人に我が国を嫌う者はいない。
②「甲+不有+乙」
例:
我原不有兄弟。
→私にはもともと兄弟はいない。
今者、日本不有狼。
→今は、日本に狼はいない。
倭人不有悪我国者。
→倭人に我が国を嫌う者はいない。
③「甲+無有+乙」
例:
我原無有兄弟。
→私にはもともと兄弟はいない。
今者、日本無有狼。
→今は、日本に狼はいない。
倭人無有悪我国者。
→倭人に我が国を嫌う者はいない。
否定文③の「無有」は、分かり難いかもしれませんね。
「無有」の「無」は、要するに「不」と同じ働きをしているのです。
現代中国語でも、「没有~」で「~がない」の意味を表します。「没」は、中国語では「無い」の意味で使われるのですが、それが「有」の前に用いられると、否定語「不」のような働きをするのですよ。
補足:「在」の使い方
存在を表す言葉といえば、「有」「無」のほか「在」という言葉もあります。
これは「甲+在+(於)+乙[場所]」という構文で使われます(「於」は、文のリズム次第であったりなかったりです)。翻訳すると、「甲は乙に在る/いる」という意味になります。
例:
我嘗在日本。
訳:私は嘗て日本にいた。
神在於人之信心。
訳:神は人の信じる心に在る。
蝦夷島在日本之北。
訳:蝦夷ヶ島[北海道の旧称]は日本の北にある。
「甲在(於)乙」の構文の否定形は、「甲不在(於)乙」となります。まぁ要は、「在」とは普通の「動詞」なわけですね。
例:
旧暦十月、神皆往出雲大社。神不在、故旧暦十月謂之「神無月」。
訳:旧暦十月は、神々がみな出雲大社に行く。神がいない。だから旧暦十月は、これを「神無月」と謂う。
王今不在於宮廷。
訳:王は今宮廷におりません。
心不在此。
訳:心此処に在らず。
語釈:①神無月[かんなづき]…旧暦十月のこと。これは日本語であって、漢文の語彙ではない。漢文の語順なら、普通「無神月」となるだろう。 ②此…場所を表す文脈の場合、「此」は「ここ」という意味になる。
補足:「無一~」の構文
漢文では、「甲には一つの乙もない」と表現したい時は、「甲+無+一+乙」という構文を使います。「一+名詞」は、数詞を名詞修飾に使う構文ですね。
例:
我今無一銭。
訳:私には今一銭もない。
我無一友已久矣。
訳:私に一人の友達もいなくなってからすでに随分となった。
「無」の部分は、同義の「不有」「無有」でもいいのかもしれませんが、私は見たことないので当ブログではとりあえず「無一~」だけ採用しときます。
練習問題
練習問題1:次の漢文を日本語に翻訳してみよう。
(1)人心有善悪、人間有利害。
(2)古王有卑弥呼者、通於鬼道、能惑人心。
(3)天使有善、而無(有)悪。悪魔有悪、而無(有)善。
(4)彼王不有信人之心。
(5)我今在中国、不在日本。
(6)神在於求救之心。
語釈:①人間…人の世。日本語の「人間」とは大分意味が違うので要注意。 ②名前+者…「名前という者」。 ③鬼道…占いとか、シャーマニズム的なこと。 ④通(於)~…~に通じる。~に精通している。 ⑤能+動詞…動詞できる。 ⑥而…そして。
練習問題2:次の日本語を漢文に翻訳してみよう。
(1)私には二人の兄弟がいます。一人は日本にいて、一人は中国にいます。
(2)私には両親がいますが、兄弟はいません。両親は、今は家にはいません。
(3)私の友人に李白という者がいます。
(4)今の日本には一匹の狼もいない。
語釈:名前という者…「名前+者」。
今日の漢文翻訳の勉強はここまでです。
お疲れ様でした。
関連ページ
- 第十六回漢文翻訳練習「場所を表す前置詞『於』」
- 今日は、「場所で」「場所において」という意味の日本語を漢文に翻訳する練習をします。
- 第十六回漢文翻訳練習の練習問題の解答
- 例のごとく前回の漢文-日本語翻訳練習の答え合わせをしていきます。
- 第十七回漢文翻訳練習「時間を表す名詞」
- 今日は、漢文の時間を表す名詞について勉強します。
- 第十七回漢文翻訳練習の翻訳問題解答
- 前回の翻訳練習の解答を示します。
- 第十八回漢文翻訳練習:漢文の数量補語
- ここでは、漢文における「数量補語」を学びます。大分高度な文の翻訳練習になってきましたが、ともかくやってみてくださいね。
- 第十八回漢文翻訳の問題の解答
- 前回の漢文翻訳の解答を示します。
- 第十九回漢文翻訳練習「数詞の使い方」
- ここでは、「一」「二」「三」などの、数を表す言葉の使い方を学んでいきます。今日も漢文と日本語の翻訳作業を頑張って行きましょう!
- 第十九回漢文翻訳練習の解答
- 今日は、数詞を扱った前回の漢文翻訳の解答を示します。
- 第二十回の翻訳問題の解答
- 今日は、前回学んだ「有り無し構文」の翻訳の答え合わせをしますよー。
- 第二十一回漢文翻訳練習:存現文
- ここでは、漢文の存現文を学びます。
- 第二十一回漢文翻訳練習の翻訳練習答え合わせ
- 今回は、前回習った漢文の「存現文」の練習の答え合わせをします。
- 第二十二回漢文翻訳練習:使役を表す文
- ここでは、漢文の「~させる」という使役を表す文型を学びます。
- 第二十二回漢文翻訳練習の練習の解答
- 今日は、前回学んだ漢文の使役の文型の翻訳練習の答え合わせをします。
- 第二十三回漢文翻訳練習:漢文の助動詞
- 今日は、漢文の助動詞について扱います。
- 第二十三回漢文翻訳練習の問題の解答
- 前回勉強した、助動詞を使った漢文の翻訳練習の答え合わせをします。
- 第二十四回漢文翻訳練習「状況可能の『可』・実現可能の『得』」
- 前回学んだ状況可能の「可」について、補足します。
- 第二十四回漢文翻訳練習の練習解答
- 前回学んだ状況可能の「可」の翻訳練習解答です。
- 第二十五回漢文翻訳練習「漢文の前置詞」
- この記事では、漢文の前置詞について勉強します。
- 第二十五回漢文翻訳練習の練習解答
- この記事では、前回学んだ前置詞の練習問題の答え合わせをします。
- 第二十六回漢文翻訳練習「名詞の修飾」
- 今回は、漢文における名詞の修飾方法について書いていきます。
- 第二十六回漢文翻訳練習の練習解答
- 前回の答え合わせをします。
- 第二十七回漢文翻訳練習:「漢文の受動文」
- ここでは、漢文の受動文を学びます。
- 第二十七回漢文翻訳練習の問題解答
- 第二十七回漢文翻訳練習の練習問題の答え合わせをします。
- 第二十八回漢文翻訳練習「漢文の接続詞」
- この記事では、日本語の接続詞・接続助詞にあたる、漢文の「接続詞」を勉強します。
- 第二十八回漢文翻訳練習の問題解答
- 今回は、前回の練習問題の解答を示します。
- 第二十九回漢文翻訳練習
- この記事では、漢文の主な語気助詞を勉強します。
- 第二十九回漢文翻訳練習の問題解答
- 第三十回漢文翻訳練習「疑問詞疑問文」
- 今回は、疑問詞と、疑問詞を使った文型「疑問詞疑問文」を勉強します。
- 第三十回漢文翻訳練習の答え合わせ