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第二十三回漢文翻訳練習:漢文の助動詞

第二十三回翻訳練習:漢文の助動詞

 こんにちは。造言主です。

 

 漢文翻訳練習も大分進みましたね…ぶっちゃけ私が大学時代身に付けた漢文の基本構文は、第三十回までには終わりそうです。

 

 あとは一部例外と語彙の問題になりますので、辞書があれば漢文はほぼマスターしたと言える状況になると思います。

 

 ゴール(?)はもうすぐそこです。はりきって漢文を勉強していきましょう。

助動詞って?

 とりあえず助動詞について説明します。

 

 助動詞は、動詞の前において動詞に意味を付け加えるという特殊な用言です。

 

 英語でいう"can""should"みたいなやつですね。こういう特殊な用言は、現代中国語にもありますし、漢文にもあります。

各助動詞の意味

 漢文は各単語の品詞がなんであるかについて、人によって意見が違いますが、とりあえず現代中国語において「助動詞」と言われるものに対応する言葉をもとに、以下に助動詞っぽいやつをいくつか挙げておきます。

 

可:①~できる。 ②~してよい(許可)。 いずれも現代中国語の「可以」に相当。

例文:
①軟水飲、硬水不飲。
訳:軟水は飲むことができるが、硬水は飲めない。

 

②汝飲此水。
訳:お前はこの水を飲んでよい。

 

~できる。現代中国語の「能」に相当。
例文:

話英語。
訳:私は英語を話すことができる。

 

当・応~べきである。現代中国語の「応該」「応当」に相当。
例文:

知其過、即謝之=即謝之。
訳:自分の過ちを知ったのなら、即座にこれを謝るべきだ。

 

~必要がある。現代中国語の「要」みたいな意味。
例文:

我今無銭。須往銀行而下銭。
訳:私は今お金がない。銀行に行ってお金を下ろす必要がある。

 

①~したい。現代中国語の「想」に相当。 ②~しようとする。実はこっちの意味で使われることの方が圧倒的に多い。漢文を読む時はこっちの意味で捉えるとほぼ間違いない。
例文:

①羨哉。我亦往日本。
訳:羨ましいなぁ。私も日本に行きたい。

 

②我説之、終不之聴。
訳:私は彼を説得しようとしたが、最後までこれを聞き入れなかった。

 

 ところで、当ブログは、文法中心に話を進めているので、品詞がなんであるかとかいう語彙面の問題については、正直あまり興味ありません。

 

 漢文の助動詞については、当ブログのおすすめ漢和辞典のところで勧めている『全訳漢辞海』の附録に助動詞一覧が綺麗にまとめられていますので、品詞を割と正確に勉強したいという方には、そちらを購入して勉強することをお勧めします。

注意①:助動詞の意味を否定したい時

 助動詞の意味を否定したい時は、助動詞の前に「不」をつければいいだけです。但し、「~てもよい」の「可」は、不可になると「~のはよくない=~てはいけない」の意味になるので注意。

 

可の否定:不可~。現代中国語の「不可以~」。
例文:

①腐肉不可食。
訳:腐った肉は食べられない。

 

不可大叫於公。
訳:大声で人前で叫んではならない。

 

能の否定:不能~。現代中国語の「不能~」。

例文:
不能書漢文。
訳:私は漢文を書くことができない。

 

応/当の否定:不応~。不当~。現代中国語の「不応~」。

例文;
一決之、不応翻意=不当翻意。
訳:一たびこれを決めたのなら、心を翻すべきではない。

 

須の否定:不須~。現代中国語の「不~」。

例文:
汝家大有富、不須出而稼銭。
訳:お前の家には大いに富があるのだ、お金を稼ぎに出る必要はないだろう。

 

欲の否定:不欲~。現代中国語の「不想~」に相当。なお、「不欲~」で「~しようとしていない」の意味になるかは不明。

例文:
不欲傷人心。
訳:私は人の心を傷つけたくはない。

 

追記:
最後の「不欲~」は、よくよく考えれば私自身はあまり見た記憶がない。普通、漢文で「~したくない」と表現される文脈では、「不忍~」=「~するに忍びない。~することに耐えられない」という言葉をよく目にした記憶がある。これも助動詞のように、動詞の前に置く表現である。

 

「不忍~」の例文:

不忍傷人心。
訳:私は人の心を傷つけることには耐えられない。

注意②:「能」と「可」の違い

 「能」と「可」はどちらも「~できる」の意味ですが、使われる文脈は微妙に違います。

 

 基本的には、「能」は現代中国語の「能」に対応し、「可」は現代中国語の「可以」に対応するので、現代中国語を勉強した人であれば両者の違いは大体分かると思います。

 

 すなわち、能=現代中国語の能=能力的に~できる、可=現代中国語の可以=状況的に~できる、といった感じですね。

 

 でもこの解釈だと、作文の時色々迷いそうな気がしますし、大雑把に過ぎますよね。

 

 私も色々、漢文で書かれた古代の中国の小説やら漢文の文法書やら、漢文法書の例文やらを見てきましたが、それらを総合して考えれば、私の独断ですが、「能」と「可」の使い分けは、以下のように覚えれば間違いないと思います。

 

①能…主語が「人」や「動物」など、主体的な「意志」を持った存在である場合に使う。
例文:

倭国王卑弥呼惑人心。
訳:倭国王卑弥呼は人心を惑わすことができる

 

飛空。
訳:鳥は空を飛ぶことができる

 

②可…主語が「物」や「事象」など、主体的な意志を持たない事物である場合に使う。
例文:

不可食。
訳:石は食べられない

 

落雷起火、落涙催憐。
訳:落雷は火を起こすことができ、落涙は憐れみを催すことができる

 

  …って、なんだかかえって分かり難くなってしまいましたかね。

 

 まぁイメージとしては、「能」は能動的で意志を持った生き物、そんなものを主語とする「できる」で、「可」は無機質で、意志などをもたない事柄や物体、そんなものを主語とする「できる」なのですよ。まァ所詮は私の経験的な解釈ですが…。

注意③:「可」の主語

 可能の「可」は、主語と述語の関係が少し面倒なので要注意です。

 

 抽象的な事柄が主語の場合は、基本的に「能」と同じように「主語+可+動詞+目的語」の語順でいいんですが、「物」が主語の時は要注意

 

 物が主語の時、「主語+可+動詞」の関係は、基本的に「主語」=「動詞の目的語」になります。従って動詞の後ろに目的語はきません。

 

例:

①軟水飲、硬水不可飲。
訳:軟水は飲むことができるが、硬水は飲むことができない
解説:軟水・硬水=「飲む」の目的語。

 

②石不可食。
訳:石は食べられない
解説:石=「食」の目的語。

補足:「可」と同じ使い方をする言葉「足」

 意味は違いますが、先ほど説明した「可」と同じような変な使い方をする言葉に、漢文の「足」があります。

 

 これも動詞の前に置い使う言葉で、否定する時には「不」を前に付ける。まぁ助動詞なんでしょうね、漢文的には。

 

 「足」は、「主語+足+動詞」で、「主語は~するに足る/値する」の意を表し、「主語」=「動詞の目的語」という関係になります。

 

例文:

①彼王尊乎?―足。
訳:かの王は尊敬するに足るか?―足る。
解説:「彼王」=「尊」の目的語。

 

②汝雖年長、性驕軽人、不足敬。
訳:あんたは年長ではあるが、性格が驕っていて人を軽視するから、敬うに値しない
解説:「汝」=「敬」の目的語。
語釈:雖+述語…~だけれども。~とはいえ。

練習問題:

練習問題①:次の漢文を日本語に翻訳してみよう。

(1)汝可速去。
(2)此魚可食、彼魚不可食。
(3)男之落涙不可使人同情。
(4)汝不能解倭語。
(5)魚能息於水中、鳥能飛於空中、獣能走於陸上。
(6)王者国之象徴、当示人民其仁徳。
(7)不応以力征人心、応以徳為之。
(8)欲学漢文者須初覚漢字。
(9)我不忍欺人、遂語其実。
(10)有男行道、有狼欲食之。男驚而急逃。
(11)日本足謂大国乎?
(12)我兵也。死不足恐。

語釈:①落涙…涙を落とす。 ②倭語…倭=日本の語=言葉。 ③為…する。 ④欺…欺[あざむ]く ⑤遂…それで。漢文の「遂」は、「かくして」「それで」くらいの意味。現代日本語の「遂に」とは意味が違うので注意。 ⑥~乎?…~か?

 

練習問題②:次の日本語を漢文に翻訳してみよう。

(1)笑うがよい。然し私はこれを諦めない。
(2)これは食べられるが、あれは食べられない。
(3)今の日本はかの国に勝てるか?―分からない。
(4)王は三つの国の言語を話すことができる。
(5)私はもう老人だ、走ることはできなくなってしまった。
(6)お前には力がある。それを用いて多くの人を救うべきた。
(7)強者は時に傲慢である。弱者の徳を見習う必要がある。
(8)子供を宥めるのに、嘘を言うべきではない。
(9)私は死んだら神になりたい。
(10)虎が現れて跳んで私を食らおうとしたが、私は即座にこれを避けた。
(11)私は老いた母を見捨てるのに耐えられず、結局これを連れて家に帰った。
(12)かの王は暴虐で、従うに値しない。

語釈:①~か?…~乎? ②もう~…已~ ③~なくなってしまった…不~矣。 ④それを用いて…「以」の一字でよい。副詞のように用いる。 ⑤見習う…「習」。 ⑥子供…子 ⑦死んだら…死後。「死んだ後」なので、時間の名詞。副詞のように用いることになる。第十七回の時間を表す名詞を思い出そう。 ⑧~になる…為~。 ⑨即座に…即。副詞。訓読は「すなは-ち」。 ⑩身捨てる…棄。 ⑪結局・それで…「遂」。

 今回の勉強はここまで。

 

 果てしなく面倒な勉強でしたね、今回は。

 

 私もこれ書くのに三時間以上かかってます。内容が膨大すぎですね、助動詞って。

 

 この記事は、一気にやるより、少しずつ勉強した方がいいのかもしれません。

 

 それでは皆さん、御機嫌よう。

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