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第二十五回漢文翻訳練習「漢文の前置詞」

第二十五回漢文翻訳練習「漢文の前置詞」

 こんばんは。お久しぶりです。造言主です。

 

 今回は漢文翻訳練習第二十五回。漢文の「前置詞」を学びます。

 

その前に:謝意―前回の漢文翻訳の解答について

今回の記事更新に当たり、実は前回の漢文翻訳の解答の記事も更新してあります。本当は先週16日の段階でもうできていたのですが…アップロードするのをすっかり忘れてました。いやはや、申し訳ない…

前置詞とは?

 前置詞とは、英語でいえば「in」「for」「at」などがこれに当たりますね。

 

 「前置詞+名詞」というように、名詞の前に置くことで、「名詞の中に」「名詞のために」「名詞において」などと、場所や時間、目的など様々な意味を表す副詞句を作ることができます。  

 

 この前置詞という品詞は漢文にもあります。漢文の前置詞の主なものとしては、「以」「於」「自」「為」「因」などがあります。

漢文の前置詞の使い方

 漢文の前置詞は、「我斬之」というように、「前置詞+名詞(句)」(これを前置詞句といいます)を動詞の前に置きます

 

 要するに「前置詞+名詞(句)」という前置詞句は、副詞と同じ位置に置けばいいわけです(但し文頭は不可)。

 

 以下、主な前置詞とその例文を示します。前置詞句の位置に注目しながら読んでみてください。

「以」の例

以:

@(手段方法)〜を用いて。〜でもって。
A(原因)〜を理由に。〜のために。
B(資格)〜として。
C(時間)を以て。
D(対象)〜を。授与動詞の「〜を」の部分を「以〜」という形で前置させる。

 

 (以下、前置詞の例文を挙げます。赤字は前置詞を、下線は前置詞句を示します。前置詞句の位置が副詞同様に動詞の前に来ている点に注意しながら見ていってください。)

 

例@:手段方法「〜を用いて」「〜で以て」の用法

此刀討彼逆賊。
訳:私はこの刀を用いてかの逆賊を討伐しよう。

 

国不可治、唯可統也。
訳:国は武力でもって治めることはできない。ただ道徳でもってのみ統べることができるのである。

 

例A:原因「〜を理由に」「〜のために」の用法

無知受此辱。
訳:私は無知のためにこのような辱めを受けた。

 

例B:資格「〜として」の用法。厳密には、「〜の身分・立場を以て…する」という意味。前置詞句の後ろの用言は「動詞」にするのが無難。

命汝!勿復還此家!
訳:私はとしてお前に命じる!二度とこの家に戻って来るな!

 

彼唯将軍命抗戦耳。彼本不好戦。
訳:彼は唯将軍として抗戦を命じたに過ぎない。彼は本来戦いを好まない。

 

例C:時間「〜を以て」「〜に」。

我思来月辞此職。
訳:私は来月を以てこの仕事をやめようと思っている。

 

当店本日閉店矣。
訳:当店は、本日を以て閉店いたしました。

 

例D:授与動詞の直接目的語の前置「〜を」。

汝急此事告其主!(=汝急告其主此事!)
訳:お前は急いでこのことお前の主に伝えよ!

 

家宝与汝。(=我与汝家宝。)
訳:私は家宝お前に与えよう。

 

補足:Dの用法について

例Dの用法については、現行の日本の漢和辞典のどれを見ても「『授与動詞』の直接目的語を前置する」とは書いていませんが、佐藤進・小方伴子編訳の『漢文文法と訓読処理−編訳『文言文法』−』という、二松学舎大学発行の書籍の頁192には、二重目的語を取る動詞とともに用いられる用法である旨が書かれています。

 

 このことは日本の一般の漢文法の書籍には言及されていないのですが、本場中国の漢文法の名著『文言文法』に記載されているとなれば、それなりに信用できるものなのでしょう。

 

 私の方でも日本の現行の各漢和辞典における「以」のDの用法の用例を見てみましたが、なるほど確かにみな一様に授与動詞とともに用いられています。それに私が大学時代に遭遇した数少ない用例も、やはり授与動詞「告」とともに用いられていました。

 

 よってとりあえず当ブログでは、Dの用法については「授与動詞と共に用いる」という文脈に限って採用することにしました。

「於」の例

その前に:「於+名詞(句)」の位置

 「於」については、第十六回に於いても学びましたね。

 

 「於」を用いた前置詞句は、その他の前置詞と違い、「動詞+(目的語)+於+名詞(句)」というように、「動詞+目的語」の直後に置く方が普通です。

 

 当ブログでも原則この傾向に従います。

 

@場所・時間の指定。〜で。〜に。
 漢文における場所や時間の表現については、第十六回(場所)第十七回(時間)を参照。

 

 今回は新しく時間の指定に「於」を使う例文を作ってみました。時間を指定する「於」は、当ブログでは、普通の前置詞同様、動詞の前に置くことにしています。動詞の後ろで時間って、なんか見た記憶ないんですよね…。

 

例:

不寝、乃寝也。
訳:彼はには寝ないが、なんと寝るのだ。

 

尚愛彼乎?
訳:お前はでもなお彼を愛しているのか?

 

説明:漢文では、動作が行われた時間は日本語同様「我起、働、寝=私は起き、働き、寝る」というように、単に時間を表す名詞をぽんと副詞として使えばいいだけなのですが(第十七回参照)、やはり日本語同様「我朝起、昼働、夜寝=私は朝起き、昼働き、夜寝る」というように、時間を指定する言葉を時間名詞の前に置くこともできます。

 

 まぁ使わなくていいものをわざわざ使うのですから、「〜には」「〜でも」「〜になっても」「〜において」などという強調的な意味合いがあるのかもしれませんね。私が漢作文する際には、漢文の「於+時間」は、多少強調の意味を込めて用いるようにしています。

 

 

 

A時間・場所の起点・物事の発生源。〜から。〜より。
例:

憎悪常軽蔑
訳:憎悪は常に軽蔑より生まれる。

 

水成水素・酸素
訳:水は水素と酸素から成る。

 

B対象「〜に」
 広く「〜に」の意味を表します。動詞の後ろだけでなく、形容詞の後ろにも使うことができます。

 

例:

我与家宝。(=我与汝家宝。)
訳:私は家宝をあげよう。

 

彼今在日本。(=彼今在日本。)
訳:彼は今日本いる。

 

汝明道理、暗倫理
訳:お前は道理には明るいが、倫理には暗い。
語釈:明於…通じてる。よく知っている。 暗於…疎い。よく知らない。

 

補足:表現の幅を広めるため、ついでに以下の表現も覚えておきましょう。まぁ高校の漢文とかで扱う熟語の応用版みたいなもんです、これは。

難(於)+動詞…〜するに難し。〜し難し。「〜するには難しい」。「〜し難い」。「〜するのは難しい」。
易(於)+動詞…〜するに易し。〜し易し。「〜するには易しい」。「〜し易い」。「〜するのは簡単だ」。

 

例:

日本語難(於)書、易(於)言。
訳:日本語は書くには難しいが、言うには易い。
解説:日本語=書・言の目的語、という関係に注意。「主語+難(於)+動詞」や「主語+易(於)+動詞」という構文は、主語=動詞の目的語という関係になるようです。

「自」の例・「為」の例

「自」:場所・時間の起点・始点「〜から」。
例:

立長為群。
訳:人は古代から長を立てて群れを作った。

 

日本来。
訳:私は日本から来ました。

 

補足:ついでに以下の決まり文句も覚えておきましょう。
1.自+甲+至+乙…甲から乙に至るまで。甲・乙は時間・場所・物事の範囲などです。まぁ日本語で「〜から…に至るまで」と訳し得るものは、皆この表現を使えばいいだけの話です。
例:

幼少未嘗欺人。
訳:私は幼少よりに至るまで、未だ嘗て人を欺いたことはございません。

 

三千里、不可一日達彼。
訳:ここからあそこまで三千里です、一日ではあそこへは到達できません。

 

賤民貴族、皆慕其徳。
訳:賤民から貴族に至るまで、皆その徳を慕った。

 

2.自+甲+(以)+来…甲よりこのかた。甲以来ずっと。甲は時間名詞、或いは文の句化したものです。

以来不復信臣。
訳:王はこれ以来、二度と家臣を信じることはなかった。

 

逢汝以来未嘗嫌人。
訳:私は君に逢って以来、一度も人を嫌ったことはないよ。

 

 

「為」
@目的「〜のために」。「君のために」など、「人のために」という意味でも使用可能。

不厭努。
訳:私はお金のためには努力を厭わない。

 

汝可死乎?
訳:お前はのために死ねるか?

 

A原因「〜のために」

恋人之死発狂矣。
訳:彼は恋人の死のために発狂した。

 

 「為」は日本語の」「〜為[ため]に」の為ですね。原因・目的などと難しく小分けしてますが、要するに日本語の「〜為[ため]に」と同じ使い方ですよ。

「因」の例

因:
理由・原因。〜により。〜が原因で。

其驕軽他。
訳:人はその驕りにより他者を軽視する。

 

日本敗戦也。
訳:日本はこれにより戦いに敗れたのである。

補足@:前置詞+名詞句

 前置詞句は、基本は「前置詞+名詞(句)」ですが、漢文の文は句化して名詞化し、名詞句になりますよね(第十二回参照)。

 

 従って、「前置詞+文」という前置詞句も基本的に可能です。

 

 以下、例文における下線は、句化した文です。

 

@「以」の例

我之不助責之乎。
訳:お前は私が助けなかったことを理由に私を責めるのか。

 

A「於」の例

此禍生王不慈民
訳:この禍いは王が民を慈しまなかったことより生じた。

 

B「自」の例

父母之死未嘗流涕。
訳:彼は父母が死んでから未だ嘗て涕[なみだ]を流したことはない。

 

C「因」の例

汝尚我不守約怒乎?
訳:お前はまだ私が約束を守らなかったことにより怒っているのか?

 

D「為」の例

不傷人心欺之、是悪否?
訳:人の心を傷つけないためにこれを欺く、これは悪かどうか。。
語釈:是…主語を再指定する「これ」。指示代名詞。「主語、是…」で「主語は、これは…」という意味を表します。

補足A:動詞句の後ろに来る前置詞

 実は、実際の漢文では、前置詞句[=前置詞+名詞句]というのは、「於」以外の前置詞であっても動詞句[=動詞+(目的語)+(目的語)]の後ろに来ることがあります。意味自体は普通の語順の時と違いはありません。

 

「以」の例:

我討賊
訳:私は賊をでもって討伐した。

 

治国、其国不当久。
訳:武力を用いて国を治めれば、その国は当然長持ちするまい。

 

「自」の例:

我来日本
訳:私は日本から来た。

 

 このほか、「為」や当ブログでは扱っていない前置詞「向」「由」などでも同様の現象が見られることから、実際の漢文では前置詞句はみな動詞句の後ろにおいていいものと推測します。

 

 ただ、この現象については、当ブログでは原則採用しないことにしています。現象として結構レアな方だと思いますし(単純に私あまり見たことないだけですが)、あまりなんでもかんでも実在の漢文法を受け入れると、現実の漢文同様解釈が難しくなっていきますからね。

 

 当ブログでは、「動詞句+前置詞句」の用法は、結構な頻度で目にする「於」と「以」のみ採用します。「以」も採用する。ここは覚えておいてくださいね。

 

練習問題

 最後に練習問題です。ふんばっていきましょう。

 

練習問題1:次の漢文を日本語に翻訳しよう。

(1)彼通於礼、疎於倫。
(2)汝於今日尚愛彼乎?
(3)病生於気。
(4)我自中国来。
(5)自生以来未嘗知上下関係。
(6)自家至学校四里。
(7)我以弟代兄謝之。
(8)我決以来月一日引退矣。
(9)汝常以人之不解汝恨人。
(10)以勅示民、民落涙不已。
(11)教化人民以道徳、征服夷狄以武力。
(12)我因之一夜不得眠。
(13)臣下為君主行政。
(14)人皆唯為生働乎?
(15)国古来為敗戦亡也。
(16)我嘗問正義於先生、曰「正義汝自決之!」

語釈:@通…通じる。詳しい。精通している。 A疎…疎い。詳しくない。 B尚…まだ。尚お。 C生…生まれる。 D勅…勅[みことのり]。王のご命令の言葉。 E動詞+不已…動詞して已まない。ずっと…し続ける。 F夷狄…蛮族。 G亡…亡ぶ。滅亡する。 H自+動詞…この場合、副詞で「[みずから]ら」となり、自分で…する、の意。

 

練習問題2:次の日本語を漢文に翻訳しよう。

(1)彼は名利に貪欲である。
(2)人が夜に眠らない、これは体に良くない。
(3)諍いは常に蔑みから出る。
(4)狼が現れ、門から家に入った。
(5)彼は戦から還って以来、心が常に鬱々としている。
(6)この国は、北端から南端に至るまで、三十万里である。
(7)王としてお前に命じよう、速やかにこれを滅せ!
(8)大戦は八月十五日を以て終焉した。
(9)お前は子供が従わないのを理由にこれを棄てるのか?
(10)学問を人に教え授ける者は、之を教授という。
(11)古人は刀剣でもって戦ったが、現代の人は機械でもって戦う。
(12)私はできないことによってお前を責めているのではない。しないことによって(これ=お前を)叱っているのである。
(13)先人は国のために戦地へ赴いた。
(14)企業は利潤を得るために活動する。
(15)国は王が暗愚であったために滅亡した。

語釈:@主語、これは…主語、是 AAを動詞する者…動詞+A+者 Bできない…不能 Cしない…不為 D滅亡した…滅亡矣

 

 今回の勉強はここまで。

 

 いやはや、漢文の前置詞…面倒過ぎますね(汗)。今回の記事書くのに五時間以上かかりましたよ。漢文の前置詞は、(同義の前置詞を省けば)種類はそう多くないのですが、各前置詞、特に「於」と「以」は意味が広すぎます。しかも他の言葉では代用できない意味が多いという重要性まで兼ね備えている。

 

 ふぅ、助動詞に引き続き、今回の勉強も山場でしたね。皆さん、本当にお疲れ様でした…

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