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第二十九回漢文翻訳練習

第二十九回漢文翻訳練習「漢文の語気助詞」

 一か月近くぶりです。

 

 造言主です。

 

 

 今回は漢文の「語気助詞」について学びます。

語気助詞とは?

 まずは語気助詞とはなんなのかをご説明しましょう。

 

 語気助詞とは、「嗚呼苦哉!」の「哉[かな]」や、「汝知之乎?」の「乎[か]」などのような、文末に付けて意味を補足する言葉です。

 

 「哉」なら感動「…なぁ!」の意味を添えることできますし、「乎」なら疑問「…乎?」の意味を添えられますね。

 

 

 まぁ要するに、漢文でいう「語気助詞」とは、日本語の品詞で言う「終助詞」のことです。

 

日本語には、終助詞は腐るほどありますよね?「なぁ」とか「よ」とか「か」とか「わ」とか「さ」とか「ね」とか。

 

 

漢文の語気助詞は、まぁ日本語のそれほど意味のないあいまいな助詞ではないので、そんなに身構えなくても大丈夫。ちゃちゃっと覚えていきましょう。

漢文の主な終助詞

 漢文の語気助詞にも色々ありますが、とりあえず普段よく目にするのと、日本人として作文で使うためのものだけ覚えましょう。

 

A:断定系

@…断定及び説明「のである」の意味を表します。
A…断定「のである」、限定「のみ/だけである」の意味を表します。
B…断定「(かくかくしかじかにて)〜のである」の意味を表します。

 

B:疑問系

@…「〜か?」。漢文訓読では「〜か」。
A…「〜か?」。漢文訓読では「〜やいなや」。
B…「もう〜か?」。漢文訓読では「〜やいまだしや」。

 

C:その他

@:完了「〜た」や命令「〜せよ」の意味を表します。
A:感動「〜なぁ」の意味を表します。

断定系の語気助詞の例文

@也…断定及び説明「のである」。

我不之知。故言不知
訳:私はこれを知らない。だから知らないと言うのだ

 

大王敬於民
訳:大王は古来より民に敬われているのだ

 

A耳…断定・説明「のである」、限定「のみ/だけである」の意味を表します。

我不之知。故言不知
訳:私はこれを知らない。だから知らないと言うのだ

 

我唯通於学。非才人也。
訳:私は唯学問に通じているにすぎません。才人というわけではないのです。

 

B焉…断定・説明「(かくかくしかじかにて)〜のである」の意味を表します。

我不之知。故言不知
訳:私はこれを知らない。だから知らないと言うのだ

 

王討夷狄、天下得太平
王が夷狄[蛮族のこと]を討伐し、天下は太平を得たのである

 

@〜Bの違いは、辞書などでは特に書いてないので、(耳の限定以外は)別に全部同じように使っても辞書的には問題なさそうなのですが、私は自分が作文する時は使い分けてます。

 

 

私が漢作文をする際は、Aは限定の意味限定で使いますし、Bは文脈的に、最後のしめの言葉として「かくして〜のである」の意味を言いたいときに「終焉」の「焉」を使っています。

 

 

もともと、「焉」の字は文末に置かれると「於之」の二字の意味を兼ねる働きがあるのです。「於之」とは「ここに」「これに」という意味ですね。

 

なので上の例の「王討夷狄、天下得太平焉。」なんかは、「王は蛮族を討伐し、天下はここに太平を得た。」という訳でもいいわけです。

 

この場合の「ここ」とは、場所ではなく、「蛮族を討伐した」という結果を指す言葉ですね。言い換えれば「かくして〜のだ」みたいな意味です。

 

 

 

辞書的には、別に「焉」の字と「耳」「也」の断定の用法とに違いがあるわけではないようなのですが、私の場合は、「焉」のこのような結果を表す語感を大切にしたくて、結果を表す文脈に限定して使うようにしています。

 

耳を限定の意味でのみ使うようにしているのも、耳の限定の語感を大切にしたいからです。

 

 

 

…まぁ、「也」「耳」「焉」の私の使い分けについては、私個人の語感重視の考え方に基づいたものに過ぎませんので、まねしなくても別に間違いではありません。

疑問の語気助詞の例文

@乎…「〜か?」。漢文訓読では「〜か」。

汝知之
訳:君はこれを知っているかい

 

神実在
訳:神はまことに存在するのだろう

 

A否…「〜か?」。漢文訓読では「〜やいなや」。

汝知之
訳:君はこれを知っているかい

 

神実在
訳:神は実在するのだろう

 

B未…「もう〜か?」。漢文訓読では「〜やいまだしや」。

汝知之
訳:君はもうこれを知っているのか

 

戦争已終
訳:戦争はもう終わったのだろう

 

 

@〜Bについての説明です。

 

@の「〜乎?」は、謂わずと知れた「〜か?」という疑問文ですね。漢文訓読も「〜か?」。何の問題もありませんね。

 

 

問題はAとBです。

 

Aの「〜否?」は、漢文訓読では「〜やいなや」なのに、訳では「〜か?」となっています。直訳すれば「〜かどうか?」なのに、これでいいのでしょうか?

 

 

これをどう訳すべきかのヒントは、現代中国語にあります。

 

現代中国語には、疑問文の形式には二つの種類があります。

 

@知道
「マ?」は、漢文で言う「乎?」に相当する言葉です(「マ」は、口編に馬)。

 

A知道不知道
直訳すると「君は知っている?それとも知らない?」という意味になる疑問形式です現代中国語の文法用語で「反復疑問文」と言います。。「知道」は、この二字で「知る」の意味。

 

この反復疑問文という形式、漢文における「〜否?」に似てませんか?「知ってる?それとも知らない?」とはつまり、「知ってる?それともそうでない?」=「知ってるかどうか?」ですよね。

 

要するに漢文の「〜否?」は、現代中国語の反復疑問文に相当する疑問形式なわけなのですが、現代中国語の「〜マ?」と「〜不〜?」の反復疑問文とでは、別に意味上の違いなんてありません

 

両方とも「〜か?」という日本語訳でおしまいです。

 

 

なので、漢文版反復疑問文の「否?」も、別に「〜かどうか?」なんて堅苦しく訳さなくても、そのまま「〜か?」で問題ないですよ(但し、入試など学校教育においては、決まった「正しい」訳し方を定めているかもしれませんので、テストなんかでは教えられた訳し方を実践するようにしてくださいね)。

 

 

 

最後にBの「未」についての説明に入ります。

 

「未」は、漢文訓読では「〜やいまだしや?」、つまり、「〜したのか、それともまだなのか?」というのが直訳の疑問形式です。

 

 要するに反復疑問文の一種ですね。現代中国語では、「?知道没知道?」などと言います。現代中国語の「没」は、「まだ〜ない」の意味を表す否定語です。

その他の語気助詞の例文

@矣:完了「〜た」や命令「〜せよ」の意味を表します。

我兄死
訳:私の兄は、(もう)死んでしまった。

 

不眠久
訳:眠らないことが久しくなってしまった。

 


訳:去れ!

 

 「矣」は、現代中国語でいう「了」に似た意味です。動作に付けば「もう〜てしまった」という完了を表し、形容詞につけば「もう〜くなってしまった」という意味を表すあれですね。

 

 「矣」には完了の他、命令の意味も表します。

 

 ただ、漢文では完了も命令も実際にはそれほど「矣」の字を使いません。漢文は文脈次第で色んな意味が勝手に付け加わりますからね。

 

 わざわざ「矣」を使わなくても、「我兄已死。」のように「已[すでに]」という文脈が加われば、「矣」がなくても完了と分かりますし、命令も「去!」のように「矣」無しで大丈夫です。

 

A哉:感動「〜なぁ」の意味を表します。

汝不知道
君は道理を知らないなぁ

 

嗚呼愚、我国王也!
嗚呼[ああ]、馬鹿だなぁ、我が国の王様は。

 

 哉は、漢文訓読では「かな」と読みます。「哀しいかな!」「愚かなるかな!」とか、現代の日本語でも気取った文章を書く人は稀に使いますね。

 

 意味は日本語の「〜なぁ!」と同じなので、別にそんな深く考えなくて大丈夫です。

 

 

 問題は語順です。漢文の「哉」は、普通はそのまま文末にちょいと付けてやればいいだけなのですが、稀に主語と述語の語順が逆になります。

 

 「嗚呼愚、我国王也!」なんかがそうですね。普通なら、「嗚呼、我国王愚!」なのですが…

 

 

 漢文では、「主語、述語+哉」が、稀に「述語+哉、主語(+也)!」という形になるのです。「也」は、ここでは「〜は」に当たる、主題を提示する言葉です。

補足:理由を表す「也」。

 ところで、「也」は断定や説明の語気を表します。なので「也」は理由を表すこともできます。

 

我愛漢文。以為古人之智
訳:私は漢文を愛している。古人の智であると思うからである

 

王不慈其民。不知民亦有人心
訳:王はその民を慈しまない。民にも人の心があることを知らないからである

 

また、構文として「甲が〜するのは、(甲が)〜からである」の意味を表すこともできます

 

 その際には、以下のような形式を取って表現することになります。

 

形式「甲(之)〜者、…也。」
説明:「〜」「…」は、形容詞、動詞+目的語など、述語が入ることになります。

 

例文

我愛漢文、以為古人之智
訳:私漢文を愛するのは、(私が)(漢文を)古人の智であると思うからである

 

不慈其民、不知民亦有人心
訳:王その民を慈しまないのは、(王が)民にもまた人の心が有ることを知らないからである

 

 辞書などに載っている実際の例文を見る限り、この「甲(之)〜者、…也。」の構文では、「…」の主語もまた「甲」である必要があるようです

 

参考:断定の「也」「耳」「焉」「矣」

 「也」「耳」「焉」が断定の意味を表すことはすでに述べた通りですが、多くの辞書を見る限りでは、実は漢文では、更に完了の「矣」まで断定の意味を表すことができます。

 

 

 ただ、限定の「耳」や「これに」「ここに」の「焉」や完了の「矣」は、たいていの場合は断定の意味に捉えなくても意味が通じてしまいます。

 

 断定の用法は語感から派生したものと考えて、覚える時はあくまでも原義的な用法、つまり、耳なら限定「〜のみ」、焉なら「ここに」「これに」、矣なら完了「〜た」の意味ととらえておきましょう。

練習問題

練習問題1:次の()内の漢文を、日本語に翻訳してみよう。

(1)我之欲娶汝者、愛汝也。
(2)王者、国之象徴、故須保威厳也。
(3)彼陰貶汝也。何足信也?
(4)我告其事実耳。非欲陥也。
(5)王信讒言、賢臣得罪而被刑焉。
(6)王真慈民乎?
(7)民慕我否?
(8)汝聞国之滅亡未?
(9)彼已渡日本矣。今不在此。
(10)有証人説曰「彼当時在市」。是以其無罪明矣。
(11)往矣!我道非汝所能解也。
(12)先導民而使国富。王哉、我君主也!
(13)嗚呼哀哉!我国之民相疑而無一所信。
(14)孔明賢哉!通於兵法、能実践之。

語釈:@娶…〜を娶[めと]る A陰…陰で。ひそかに。 B貶…〜を貶[おとし]める C陥…〜を陥[おとしい]れる D刑…〜を刑に処す。 E説…説明する。

 

練習問題2:次の日本語を漢文に翻訳してみよう。

(1)人がお前を嫌悪するのは、お前が人を妄りに蔑むからである。
(2)王は頗る横暴である。だから民はこれを怨むのである。
(3)お前はできないのではない。やらないのである。
(4)お前はただ嫌われているに過ぎない。お前に非があるのではないのだ。
(5)神が天地を創り、王が次いで国を造り、我が国は興ったのである。
(6)死後に尚[なお]心は有るのか?
(7)汝に問おう、我が国は帝国や否や?
(8)将軍は日本に至っただろうかまだであろうか?
(9)急いで家に帰ったが、家族は皆已に死んでしまっていた。
(10)喜べ!王が帰還したぞ!
(11)彼を見ないことが久しくなった。
(12)我が主は暗愚だなぁ!未だに人を用いる術も知らないとは!
(13)嗚呼、美しいなぁ、我が妻は!

語釈:@〜を嫌悪する…悪〜 Aできない…不能 Bしない…不為

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