漢文翻訳練習第二十七回「漢文の受動文」
お久しぶりです。造言主です。
今回は翻訳練習第二十七回。漢文の受動文、すなわち「甲に乙される」という意味を表す、受け身の文について学びます。
受動文とは?
「私は先生に怒られる。」「虫は鳥に食われる。」のような、日本語で「れる」「られる」を以て訳される文のこと。
普通の文なら「主語は~する[するのは主語]」というように、主語が動作主となっているものですが、受動文では「主語が~される[されるのは主語]」というように、主語が動作の対象となるわけです。
漢文の受動文
漢文の受動文としては、およそ以下のような形式があります。
①甲+(副詞等)+他動詞+於+乙。→甲は乙に他動詞される。
②甲+(副詞等)+被/見+他動詞+於+乙。→甲は乙に他動詞される。
③甲+(副詞等)+為+乙+(之)+所+他動詞。→甲は乙が他動詞するところとなる=甲は乙に他動詞される。
①の例:
我兄殺於王。 我が兄は王に殺された。
奇論屡嘲於人。 奇論は屡[しばしば]人に嘲笑われる。
注意:ただ、「於」は日本語の「に」にも当たる表現ですので、普通の文で「問於~[~に質問する]」「頼於~[~に頼る]」などの表現形式を取る動詞の場合、この受動文の形式だと普通の文なのか受動文なのか判断できず、読解に支障がでてきてしまいます。
当ブログでは、そのような支障を極力排除するために、①の受動文の形式は、「~をする」のように日本語の「を」を以て目的語を導く他動詞が動詞の時に限定して使っていいことにしています。
②の例:
我兄被殺於王。=我兄見殺於王。
奇論屡被嘲於人。=奇論屡見嘲於人。
注意:「見られる」を「見見」などとは表現しないので注意が必要です。「被[かぶ]られる」も「被被」とは表現しません。流石に古代人も、わざわざ明確に読解に支障を来すと書いてる本人も自覚できるようなレベルの文は、書かなかった模様です。「見られる」は「被見」、「被られる」は「見被」などとすればよいだけですしね。
③の例:
我兄為王(之)所殺。
奇論屡為人(之)所嘲。
補足①:受動文の「乙に~される」の「乙」の部分は、皆省略可能。
①「甲他動詞於乙」の形式であれ②「甲被/見他動詞於乙」の形式であれ③「甲為乙(之)所他動詞」の形式であれ、「乙」は省略可能です。
①の例:
我兄殺。 私の兄は殺された。
奇論屡嘲。 奇論は屡嘲笑される。
注意:この形式の場合、他動詞が目的語を伴っていないところから受動文と判断できるかもしれませんが、漢文では目的語の省略も割と普通にあるので、実際には完全に文脈に依存することになります。
当ブログでは、曖昧さを避けるため、①の形式ではなるべく「乙」の省略を認めないことにしています。
②の例:
我兄被殺。=我兄見殺。
奇論屡被嘲。=奇論屡見嘲。
③の例:
我兄為所殺。
奇論屡為所笑。
補足②:名詞述語文「甲、乙所他動詞(也)」。
名詞述語文「甲、乙所他動詞(也)」も、「甲は、乙の他動詞するところである」だから、時に受動文「甲は、乙に他動詞されている」とも訳しうる点に注意しましょう。
例:
天皇古来倭人所畏、至今保王位。
訳:天皇は古来倭人の畏敬する所であり[=倭人に畏敬されていて]、今に至るまで王位を保っている。
練習問題
練習問題1:次の漢文を、日本語に翻訳してみよう。
(1)賢王尊於民、愚王反蔑。
(2)此山多虎、行人屡為虎所食。
(3)強者被殲、弱者亦見滅。
(4)富者見恨於貧者、貧者被蔑於富者。
(5)王性甚暴、為民所恨。
(6)王者古来民所畏敬也。
語釈:①反→反対に[副詞]。 ②屡→屡[しばしば]。 ③殲→ほろぼす。 ④暴→暴虐。 ⑤王者→ここでの「者」は、「~というものは、」の意。
練習問題2:次の日本語を、漢文に翻訳してみよう。
(1)狼は嘗て倭人に尊ばれたが、今は唯だ恐れられるのみとなった。
(2)賢い家臣は時に愚王の恐れる所と為り、讒言を以て殺された。
(3)お前は尚も人の疑う所である。
(4)才能を以て驕る者は、必ず嫌う所と為るだろう。
語釈:①今は唯だ~のみとなった。→今唯~矣。 ②家臣→臣 ③讒言[ざんげん]→讒[ざん]。人を陥れるような陰口、告げ口。 ④才能→才。 ⑤嫌う→悪。
今日の勉強はここまでです。
それでは皆さん、ごきげんよう。
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