句法第二形容詞句
みなさんこんばんは。
今回は、名詞を修飾する句、「形容詞句」について勉強します。
なお、形容詞句という言葉も当サイトの造語。普通は連体修飾句、とか言うんですかね?ともあれ、漢文の名詞修飾をする句について、今回は学びます。
形容詞句
形容詞句概説
形容詞句とは、名詞を形容=修飾する句のこと。
漢文では、形容詞句になりうるものは二種類あります。一つは則ち名詞、一つは則ち述語です。
形容詞句は、その直後に必ず形容する対象となる名詞を置きます(「形容詞句-名詞」という構造になるということ)。
また、述語が形容詞句になっている場合、その修飾対象は形容詞句の主語となっています(「形容詞句-名詞」の「形容詞句=述語」の時、「名詞」=「述語=形容詞句」の主語ということ)。
ともあれ、以下、具体例を見ていきましょう。赤字部分が形容詞句です。
例1:国王
訓読:国の王
翻訳:国の王
解説:国は名詞ですが、ここでは直後の名詞「王」を修飾する形容詞句となっています。これは名詞が形容詞句になった例。
例2:行人
訓読:行く人
翻訳:行く人
解説:「行」は自動詞ですが、ここでは直後の名詞「人」を修飾する形容詞句となっています。これは述語が形容詞句になった例。また、「行」の動作主は、形容詞句「行」によって形容された直後の名詞「人」です。
例3:暗愚王
訓読:暗愚なる王
翻訳:暗愚な王
解説:「暗愚」は自動詞。この例では直後の名詞「王」を修飾する形容詞句となっています。例2同様、述語が形容詞句になった例。また「暗愚」の動作主は直後の名詞「王」です。
例4:好色男
訓読:色を好む男
翻訳:色を好む男
解説:「好色」は「色を好む」という、「他動詞-目的語」構造からなる述語です。それがこの例では直後の「男」を修飾する形容詞句となっています。また「好色」の動作主が誰かと言えば、形容詞句「好色」により形容された名詞「男」です。
例5:嘗教我仁以論語師
訓読:嘗て我に仁を教ふるに論語を以てする師
翻訳:かつて私に論語でもって仁を教えた師
解説:「嘗教我仁以論語」は「嘗て我に仁を教ふるに論語を以てする」という、「副詞-授与動詞-目的語1-目的語2-前置詞-目的語」からなる述語です。それがこの例では、直後の名詞「師」を修飾する形容詞句となっています。この例も例2・3・4と同様、述語の動作主は直後の名詞「師」となっています。
なお、実際の漢文ではこのような長々しい形容詞句は普通見られないので、そんなに心配しなくても大丈夫です。あくまでも文法上はこういう構造になるよという例として挙げたに過ぎませんので。
ともあれ、いずれも先に述べたルール通りになっていることに注目していただければと思います。
練習問題1:次の漢文を書き下し、日本語に翻訳してみましょう。また、漢文のうち、形容詞句部分も抜き出してみましょう。
(1)倭国王古来治此島国。
(2)若国常有聡明君主天下太平。 若…若[も]し。
(3)我聞此地嘗有食人馬大害村民。
(4)汝見困窮人供之食矣。
練習問題2:次の書き下し文を、漢文に直してみよう。
(1)此の国 流浪する人多し。
(2)大きなる石 道を塞ぐ。
(3)民を虐ぐる王何ぞ民に叛逆せられざらんや?
(4)中国の人古来此の地を治む。
[補第一]
漢文では、時に、「之」の字を形容詞句とその形容する名詞の間に挿入することがあります。
これにより、「之」の字の前の部分が句であることを明示することができるのです(分かり易くする働きがあるだけで、意味上の差異はありません)。
なお、「之」の字を挿入した場合、訓読では、たとえ形容詞句が述語の場合でも「の」を挟むようになるので、そこだけは注意しましょう。
例1:国王=国之王
訓読:国の王
翻訳:国の王
例2:行人=行之人
訓読:行くの人
翻訳:行く人
例3:暗愚王=暗愚之王
訓読:暗愚なるの王
翻訳:暗愚な王
例4:好色男=好色之男
訓読:色を好むの男
翻訳:色を好む男
例5:嘗教我仁以論語師=嘗教我仁以論語之師
訓読:嘗て我に仁を教ふるに論語を以てするの師
翻訳:かつて私に論語でもって仁を教えた師
練習問題3:次の漢文を書き下し、日本語に翻訳してみましょう。また、漢文のうち、形容詞句部分も抜き出してみましょう。
(1)倭国之王古来治此島国。
(2)若国常有聡明之君天下太平。 若…若[も]し。
(3)我聞此地嘗有食人之馬大害村民。
(4)汝見困窮之人供之食矣。
練習問題4:次の書き下し文を、漢文に直してみよう。
(1)此の国 流浪するの人多し。
(2)巨大なるの石 道を塞ぐ。
(3)民を虐ぐるの王何ぞ民に叛逆せられざらんや?
(4)中国の人古来此の地を治む。
[補第二]
「其[そ-の]」の字もまた形容詞句となることができます。又、「其」の字は、他の形容詞句と併用することもできます。なお、「其」の字は、直後に「之」の字を入れることは絶対にありません。
其の字が単独で形容詞句になる例
例1:其王
訓読:其の王
翻訳:その王
例2:其人
訓読:其の人
翻訳:その人
例3:其男
訓読:其の男
翻訳:その男
例4:其師
訓読:其の師
翻訳:その師
其の字が他の形容詞句と併用される例
以下、赤字は第一の形容詞句である「其」を、下線部は第二の形容詞句を表すものとします。
例1:其国王
訓読:其の国の王
翻訳:その国の王
例2:其行人
訓読:其の行く人
翻訳:その行く人
例3:其暗愚王
訓読:其の暗愚なる王
翻訳:その暗愚な王
例4:其好色男
訓読:其の色を好む男
翻訳:その色を好む男
例5:其嘗教我仁以論語師
訓読:其の嘗て我に仁を教ふるに論語を以てする師
翻訳:そのかつて私に論語で以て仁を教えた師
練習問題5:次の漢文を書き下し、日本語に翻訳してみましょう。また、漢文のうち、形容詞句部分も抜き出してみましょう。
(1)其倭国王古来治此島国。
(2)若国常有其聡明君天下太平。 若…若[も]し。
(3)我聞此地嘗有其食人馬大害村民。
(4)汝見其困窮人供之食矣。
(5)其人不知祖国亡乎? 亡…亡ぶ。
練習問題6:次の書き下し文を、漢文に直してみよう。
(1)此の国に其の流浪する人有りや否や?
(2)其の大きなる石 道を塞ぐ。
(3)其の民を虐ぐる王何ぞ民に叛逆せられざらんや?
(4)其の中国の人今此の地を治む。
(5)其の王何ぞ我を恨む?
[補第三]
「此[こ-の]」「彼[か-の]」の二者もまた、形容詞句となることができます。この二者も、「其」の字と同様に、他の形容詞句と併用することができます。また「其」の字同様、直後に「之」の字を挿入することはありません。
此の字が単独で形容詞句になる例
例1:此王
訓読:此の王
翻訳:この王
例2:此人
訓読:此の人
翻訳:この人
例3:此男
訓読:此の男
翻訳:この男
例4:此師
訓読:此の師
翻訳:この師
此の字が他の形容詞句と併用される例
以下、赤字は第一の形容詞句である「此」を、下線部は第二の形容詞句を表すものとする。
例1:此国王
訓読:此の国の王
翻訳:この国の王
例2:此行人
訓読:此の行く人
翻訳:この行く人
例3:此暗愚王
訓読:此の暗愚なる王
翻訳:この暗愚な王
例4:此好色男
訓読:此の色を好む男
翻訳:この色を好む男
例5:此嘗教我仁以論語師
訓読:此の嘗て我に仁を教ふるに論語を以てする師
翻訳:このかつて私に論語で以て仁を教えた師
練習問題7:次の漢文を書き下し、日本語に翻訳してみましょう。また、漢文のうち、形容詞句部分も抜き出してみましょう。
(1)此倭国王古来治此島国。
(2)若国常有此聡明君天下太平。 若…若[も]し。
(3)我聞此地嘗有此食人馬大害村民。
(4)汝見此困窮人供之食矣。
(5)此人不知祖国亡乎? 亡…亡ぶ。
練習問題8:次の書き下し文を、漢文に直してみよう。
(1)此の国に此の流浪する人有りや否や?
(2)此の大きなる石 道を塞ぐ。
(3)此の民を虐ぐる王何ぞ民に叛逆せられざらんや?
(4)此の中国の人今此の地を治む。
(5)此の王何ぞ我を恨む?
彼の字が単独で形容詞句になる例
例1:彼王
訓読:彼の王
翻訳:あの王
例2:彼人
訓読:彼の人
翻訳:あの人
例3:彼男
訓読:彼の男
翻訳:あの男
例4:彼師
訓読:彼の師
翻訳:あの師
彼の字が他の形容詞句と併用される例
以下、赤字は第一の形容詞句である「彼」を、下線部は第二の形容詞句を表すものとする。
例1:彼国王
訓読:彼の国の王
翻訳:あの国の王
例2:彼行人
訓読:彼の行く人
翻訳:あの行く人
例3:彼暗愚王
訓読:彼の暗愚なる王
翻訳:あの暗愚な王
例4:彼好色男
訓読:彼の色を好む男
翻訳:あの色を好む男
例5:彼嘗教我仁以論語師
訓読:彼の嘗て我に仁を教ふるに論語を以てする師
翻訳:あのかつて私に論語で以て仁を教えた師
練習問題7:次の漢文を書き下し、日本語に翻訳してみましょう。また、漢文のうち、形容詞句部分も抜き出してみましょう。
(1)彼倭国王古来治此島国。
(2)若国常有彼聡明君天下太平。 若…若[も]し。
(3)我聞此地嘗有彼食人馬大害村民。
(4)汝見彼困窮人供之食矣。
(5)彼人不知祖国亡乎? 亡…亡ぶ。
練習問題8:次の書き下し文を、漢文に直してみよう。
(1)此の国に彼の流浪する人有りや否や?
(2)彼の大きなる石 道を塞ぐ。
(3)彼の民を虐ぐる王何ぞ民に叛逆せられざらんや?
(4)彼の中国の人今此の地を治む。
(5)彼の王何ぞ我を恨む?
[補第四]
「所」の字もまた形容詞句を作ることができます。
「所」の字で形容詞句を作る場合は、以下のような句形を取ります。今、これを所形容詞句と呼ぶこととしましょう。
所形容詞句の句形:「名詞-(之)-所-述語-(之)-~」
訓読:「名詞の述語する所の~」
翻訳:「名詞が述語する~」
形容詞句は、その直後に名詞を取るので、実際に使用される形は、以下のようになります。
実際に使われる形:「名詞-(之)-所-述語-(之)-名詞」
訓読:「名詞の述語する所の名詞」
翻訳:「名詞が述語する名詞」
例1:「我之所愛之妻」=わたしが愛する妻
例2:「汝之所知之事」=お前が知っている事
注意点:「所名詞句」の時は、「所」の字が「もの/こと/ひと」などといった曖昧な意味で訳出されていましたが、「所形容詞句」となった場合は、「所」の字は訳出されません。
これは、形容詞句として使われた場合、直後の名詞が「所」の字の指す具体的に内容となるためです。
例えば、「我之所愛之妻」ですが、「我之所愛(私が愛する者)」の具体的内容は直後の「妻」ですね。なので「私が愛する者である妻」=「私が愛する妻」という意味になります。「所」の字は日本語的にはわざわざ訳出する必要がないわけですね。
解説:実はこれは、第一課の「名詞句」を勉強した時にならった「所名詞句」の応用に過ぎません。
今回の勉強で習ったように、名詞はそのままで形容詞句になることができましたし、直後に「之」をつけることでも形容詞句になることができました。
これと同じように、所名詞句も形容詞句になることができる、ただそれだけの話だったりします。(但し、所名詞句にたまにある最後の「者」の字は省略しなければならないですが)。
敢えて確認すると、「所名詞句」は「名詞-(之)-所-述語-(者)」という句形を取りましたね。
それが形容詞句になると、「者」の字は必ず省略されなければならないので、原則としては「名詞-(之)-所-述語」となります。但しこれは名詞と同じ扱いになるので、直後に「之」の字をつけても構わない。
故に、「所名詞句」は形容詞句になるとき、「名詞-(之)-所-述語-(之)」という句形になるのです(下の例文「所の字が述語中の他動詞の目的語となる例」「所の字が述語中の前置詞の目的語となる例」参照)。
練習問題9:次の漢文を書き下し、翻訳してみましょう。
(1)汝所思事我皆知之矣。
(2)民之所恨之人暴虐之王也。
(3)嗚呼汝喪己之所愛人乎。
(4)王勿疑其所信之臣。 其…ここでは、「己之所…」「己所…」と同義。
練習問題10:次の書き下し文を、漢文に復元してみましょう。
(1)子 我に其の考ふる所の事を告げず。
(2)王須らく民の欲する所の物を知るべし。
(3)嗚呼我が愛する所の夫 何れの日にか此に帰らん。
(4)我が乗る所の馬已に死にしや未だしや。
また、「所名詞句」がその主語の部分「名詞-(之)」を省くことができたように、所形容詞句もその主語部分「名詞-(之)」を省いて、「所-述語-(之)」という形を取ることができます(下の例文「所形容詞句中の主語が省かれる例」を参照)。
所の字が述語中の他動詞の目的語となる例
例1:我之所愛之妻=我之所愛妻=我所愛之妻=我所愛妻
訓読:我の愛する所の妻
翻訳:私が愛する(人である)妻
解説:翻訳の()内の部分は普通訳出しない。つまり、「所」の部分は、「所形容詞句」では訳さないのが原則である。以下、同じ。
例2:汝之所知之事=汝之所知事=汝所知之事=汝所知事
訓読:汝の知る所の事
翻訳:お前が知っている(ことである)事
例3:王之所常憂之事=王之所常憂事=王所常憂之事=王所常憂事
訓読:王の常に憂ふる所の事
翻訳:王がいつも心配している(ことである)事
練習問題11:次の漢文を書き下し、翻訳してみましょう。
(1)所思事我皆知之矣。
(2)所恨之人暴虐之王也。
(3)嗚呼汝喪所愛人乎。
(4)王勿疑所信之臣。
練習問題12:次の書き下し文を、漢文に復元してみましょう。
(1)子 我に考ふる所の事を告げず。
(2)王須らく欲する所の物を知るべし。
(3)嗚呼、愛する所の夫 何れの日にか此に帰らん。
(4)乗る所の馬已に死にしや未だしや。
所の字が述語中の前置詞の目的語となる例
例1:我之所自生之国=我之所自生国=我所自生之国=我所自生国
訓読:我のよりて生まるる所の国
翻訳:私が生まれた(ばしょである)国
解説:翻訳の部分から「よりて」に当たる部分が消えていますが、この辺は以前習った所名詞句を参照してください。同じ現象ですので。同じ理由で、以下の例も前置詞の部分が訳出されていません。
例2:汝之所以殺人之刀=汝之所以殺人刀=汝所以殺人之刀=汝所以殺人刀
訓読:汝の以て人を殺す所の刀
翻訳:お前が人を殺す(どうぐである)刀
例3:朕之所於王之国=朕之所於王国=朕所於王之国=朕所於王国
訓読:朕の(於いて)王たる所の国
翻訳:朕が王である(ばしょである)国
注意:「於いて王たる」の「於いて」のところが括弧つきなのは、書き下しの伝統として、所名詞句や所形容詞句内の「於いて」は、書き下さずに省略されるからです。
なので書き下し文は、正しくは「朕の王たる所の国」です。敢えて「於いて」をつけたのは、単に、構造を分かり易くするため、つまり学習の便宜を図るためです。
練習問題13:次の漢文を書き下し、翻訳してみましょう。
(1)人之所自生女謂之母。
(2)此王所以誅逆臣之刀也。
(3)我已失其所於帰国矣。 其…ここでは、「己(之)」と同義。
(4)彼国有王之所以治国之忠臣否?
練習問題14:次の書き下し文を、漢文に復元してみましょう。
(1)汝の以て虎を狩る所の槍今安くにか在る?
(2)此れ朕の(於いて)王たる所の国なり。
(3)汝のよりて来たる所の国安くにか在る?
(4)王尚ほ其の以て臣を誅す所の剣を有す。
所形容詞句中の主語が省かれる例
例1:所愛之妻=所愛妻
訓読:愛する所の妻
翻訳:愛する(人である)妻
例2:所知之事=所知事
訓読:知る所の事
翻訳:知っている(ことである)事
例3:所常憂之事=所常憂事
訓読:常に憂ふる所の事
翻訳:いつも心配している(ことである)事
例4:所自生之国=所自生国
訓読:よりて生まるる所の国
翻訳:生まれた(ばしょである)国
例5:所以殺人之刀=所以殺人刀
訓読:以て人を殺す所の刀
翻訳:人を殺す(どうぐである)刀
例6:所於王之国=所於王国
訓読:於いて王たる所の国
翻訳:王である(ばしょである)国
練習問題15:次の漢文を書き下し、翻訳してみましょう。
(1)所自生女謂之母。
(2)此所以誅逆臣之刀也。
(3)我已失所於帰国矣。 其…ここでは、「己(之)」と同義。
(4)彼国有所以治国之忠臣否?
練習問題16:次の書き下し文を、漢文に復元してみましょう。
(1)以て虎を狩る所の槍今安くにか在る?
(2)此れ(於いて)王たる所の国なり。
(3)よりて来たる所の国安くにか在る?
(4)王尚ほ以て臣を誅す所の剣を有す。
参考:名詞と所名詞句が形容詞句化した場合の意味上の違いについて
簡単に説明してしまいましたが、実は「所名詞句」と「名詞」の形容詞句としての意味は、微妙に違います。
普通の名詞の場合は「名詞-(之)-~」で「名詞の~」という意味を表しましたが、「所名詞句」が形容詞句化した場合は「名詞-(之)-所-述語-(之)-~」で「名詞が述語する所である~」=「名詞が述語する~」という意味となっています。
つまり、名詞が形容詞句化した場合は「A『の』~」という所有や属性関係を表す意味の形容詞となりますが、所名詞句が形容詞句化した場合は、「Aが述語する対象『である』B」という同格関係を表す形容詞となります。
…まぁ、実用する際にはいちいちそんな違い意識しなくても、型通りやればいいんですけどね。あくまで参考です。…なんの参考になるかはわかりませんが。
終わりに
以上で今回の勉強も終わり。
ではまた。再見。
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